『科学する!?』
いつも大変お世話になり、またビプロスニュースをご愛読頂きありがとうございます。
まさに光陰矢の如し。今年も残すところあとわずかとなりました。皆様におかれましても、目の前のやらなくてはいけないことに忙殺されながらも今年の総括と、併せて来年へのビジョンの作成などなにかと忙しい時期だとは存じますが、また新たにやってくる年をさらに良いものにするために、年末に向けラストスパートをかけて参りたいと思うところです。それでは今回も是非お付き合いくださいませ。
さて先日、あるサロンのオーナーと、昨年お亡くなりになられた蟻牙スピリッツの五十嵐社長を偲び、思い出話をする機会がありました。その中で『五十嵐社長は感性というあいまいなものを論理立てて文章にすることが出来る、ある意味科学者だったね』という話で盛り上がりました。『五十嵐社長は科学者だからこそ存在するどんなものに関しても、ぶれることなくひとつひとつそれぞれが持っている存在する意義を明確に分析し、あるべき方向性を明確に示すことが出来たのだ』と。
そしてそのサロンオーナーが、そういう意味では『美容師も目に見えない感性を形という目に見えるものに創り上げることが出来る、そういう意味では科学者だ』と仰いました。感性を形にするということでいえば、科学者というよりどちらかというと芸術家的なイメージが強い美容師ですが、ビダルサスーン氏しかり、確固たる信念と理論に基づいた技術を持ち、スタイルの最終形への筋道を論理立てて考え、そのイメージ通りに創れる美容師は、その方が仰る通り『科学者』なのだろうなと妙に納得させられた言葉でした。
私共の身近なパートナーの一人で、『セットは感覚』という言葉に若い頃から疑問を持ち、感性でなく誰もがお客様の個性に合わせたセットが出来るように出来ないものかと試行錯誤を繰り返し、自ら独自のセット理論を開発し、今や多くのサロンでセットやアップの教育を手掛けている方がいらっしゃいますが、これもまさに上記同様『科学者』の域に入るのだろうなと感じました。
ところでここ数年来、脳科学という言葉をはじめ、マーケティングを科学する、コミュニケーションを科学するなど『~を科学する』という言葉が多くの場で使われておりますが、そもそも『科学する』とは何を表す言葉なのでしょうか?今回はこれをテーマに考えてみたいと思います。
ところで唐突ですが、あなたは幽霊を信じますか?たまにいわゆる霊感なるものを持っている方がいて、その方から霊の話を興味深く聞かせてもらうことがあります。私は全くそういった感性を持ち合わせていないのか、残念なことに(?)一度も出会ったことがありませんが、それでも私は幽霊の存在を100%信じています。しかし一方で中には科学的に証明されていないものは一切信じないという方も多くいらっしゃいます。もちろん幽霊が見えると言っている人には、おそらくそれが現実的に見えているのでしょう。しかし万人に納得される根拠がなければ結局周りから認められることはなく、これはやはり科学と云うにはふさわしくないものなのだと思います。
また仮に、ある一時期に急速にファン顧客を創り、売上を大幅に伸長させ、周りもうらやむくらいの高い評価を得たスタイリストがいたとして、その翌年には本人は同じことをやっているつもりなのになぜか売上が上がらなくなってしまうケースがあります。同じ人間が同じことをやっているはずなのに結果が大きく変わってしまう。このような一回こっきりの打ち上げ花火で終わってしまうような状況も、自分の中で次のステップで何をすれば継続して成果を出し続けることが出来るのかを論理立てたストーリーとして作ることが出来ていないことの証。
これは諸行無常、お客様の気持ちや趣向の変化はもちろん、周りのサロンを含めあらゆるすべての環境は常に変化するものだということに気付かなかったことが原因であり、継続して同様の高い成果を出し続けるためには、自分自身の姿勢や行動、手法にも常に変化が求められていることを忘れてしまった結果なのだと思います。感性だけを頼りに謙虚さを忘れ、行き当たりばったりで物事を捉えていたがために更なる上昇気流に乗るための流れを自分の中に取り込めなかったことが原因。そもそも感覚というものは、再現性がないものなので当然検証も出来ませんし改善など出来るものではありません。このケースも上述した幽霊の話同様、感覚だけではなかなか成果にはつながりにくく、周りからは認めてもらえない、つまり行動が『科学されている』と云うにはふさわしくない事例なのだと思います。
では、『科学する』とはいったいどういうことなのか?
『科学する』とは、安定した成果に繋げることが出来る状況を作るために、漠然とした感覚でなく、誰が、いつ、何度繰り返しても同様の結果を得ることが出来る、つまり『状況をきちんと分析したうえで再現性のある状態を作り上げること』。もちろんそう簡単なことではないでしょう。しかし、もしそれが出来たら?どんな経済環境に陥ったとしてもぶれることなく、常に成果を出し続けることが出来るようになるのではないでしょうか。
今年はリオデジャネイロ五輪での日本勢の大活躍など嬉しい話題もあった反面、年始は株価の暴落から始まり、熊本での大地震や台風被害、また都知事の辞職など決して明るいとは云えない多くの出来事がありましたが、今はそれこそ何が起きてもおかしくない、まさに社会が混沌としている時代。美容業界もしかりです。人口減少、高齢少子化、さらには寿命が延びているにもかかわらず寝たきり大国という汚名を着せられている日本の現実、そしてサロン軒数の飽和やスタッフ不足、そういった中で経営を続けるということは決してたやすいことではありません。
それこそそういった環境の中で、今までと同じ延長線上で経営を考えていたのでは手遅れになりかねません。今までと同じことを同じやり方で繰り返すだけでは、これからの時代の変化の波を乗り越えていくのは決して容易なことではないと思います。
ましてや消費増税は延期されたものの、マイナンバー導入に始まり、今後も益々労務あるいは税制に関わる規程変更等、会社の利益を圧迫しかねないようなことが起きてきそうな情勢です。
そう考えると今後益々、生産効率を上げなければ経営を継続できなくなるという事態さえ起きかねませんし、実際に一人一人に求められる成果というハードルも今まで以上に高くなってきております。
そういった状況の中で、今後さらに、いかにしてお客様の潜在意識の中にある『あったらいいな』という願望を具現化し、お客様に『嬉しい』と感じてもらえるような新しいサービスやコトを提案できるようにするか、また自店のブランド化を推進するために自店を他店とどうやって差別化するのか、つまりお客様が自店を選ぶ理由作り、これが本当に大切になってくると思います。
『私は美容師だからヘアー以外のことは興味がない』と断言するサロンオーナー様も少なくありませんが、それを否定するつもりはありません。しかし美容師というお客様に最も身近な所で寄り添うことのできる職業だからこそ提供できるサービスは、まだまだたくさんあるはず。チャンスは目の前にいくらでもあるのに、非常にもったいないことだと感じます。
昨今、お客様へトータルビューティーの提案をしているサロンが増えてきておりますが、他にもお客様に健康で長く来店し続けてもらうための健康づくりのサポートだったり、まだまだ美容業界にいる私たちが出来ることは他にも多々あるはず。人口の増加と共に景気が上がり続けていた時代と異なり、成果を上げ続けることが難しい時代だからこそ、一部の特殊なスーパーマンによる高い技術売上を期待するのではなく、改めて現状を的確に分析し直し、誰がやっても安定して同じ高い成果が出せるような手法を構築し、その実現に向けて行動を仕組み化してみること、つまり『事業を科学する』ことが今、必要とされる時期に来ている気が致します。
5年後も10年後もさらに発展し続けるために今何をしなければいけないか。やる前からやらない理由を掲げるのではなく、今一度今後のビジョンを改めて考え、『まずはやってみよう』という気持ちで、新たな展開やサロン変革に挑戦してみて頂きたいと思います。
技術はもちろん、サービスやスタッフ、その他あらゆる側面からもう一度会社としての基本となる独自性は何なのかを整理し、それを暗黙知という感覚的なものではなく形式知として具体化させ、方向性や行動の仕組みを社内で確立させていく。その上で、その実現に向けた行動を実践し、その過程の中で更なる軌道修正を繰り返してみる。そしてそれが実際に再現性を伴って『科学する』レベルまでに落とし込めるようになれたならば!?どんな時代になったとしても決してビクともしない、さらに強い組織に進化し、個人はもちろん、業界自体も大きな成果という果実を手にすることが出来るようになるのではないかと思います。
そしてこの『科学する』レベルに組織を進化させるために、私たちに今最も求められる資質、それは『気付く能力』であると思います。自分の置かれている現状、自分の変化、周りの変化、伝えたつもりが伝わっていないこと、やっているつもりが出来ていないことなどなど。周りを見てなぜできないのかを嘆いたり人を責めたりするのではなく、常に相手なりの論理に気付ける感性。この気付くアンテナこそが、実践過程の中で自らが変化し続けることを可能にし、成長の源となるものだと確信致します。その謙虚さがさらに力強いチームワークと、高品質なサービスを提供できる環境を産み出してくれるはず。これこそがまさに営業、そして経営を『科学する』ための大きな力になるのではないかと思います。
年末を控え来年を展望する中で、私も来年はさらにこのアンテナを磨く努力をして参りたいと思っております。そのために気付いた時には後回しにせず、その瞬間にお互いに指摘し合える環境作りがなにより大事。社内ではもちろんですが、お客様との間でもこのような関係が作れたらありがたいと思う次第です。
今号が本年最後のビプロスニュースの発行となります。皆様には本年も大変お世話になり有難うございました。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
悔いの残らない年末と皆様にとって飛躍する素敵な新年をお迎え下さいませ。