President's view

代表取締役 桐岡俊樹

『当たり前』

こんにちは。日頃は大変お世話になり有難うございます。
東北大震災以降、被害の甚大さや放射能汚染の影響から、被災地の復旧作業がいまだ遅々として進まない状況であり、まだまだ復興にも時間がかかると思われますが、まずは被災地の一刻も早い復興を心よりお祈り致します。
また、その他の地域においても、計画停電や自粛ムード等によって店舗の営業活動に支障をきたしているサロン様も少なくないことと思います。まずは私自身、仕事が普通に出来る環境があることに感謝を致し、今回のお話を始めさせて頂きます。 

さて今回は、震災で被災し、兄夫婦の家にお世話になることになった、ある弟一家の話からスタートしたいと思います。
被災した一家は夫婦と子供二人の4人家族。幸いにも今回の災害で家族は全員無事だったが、残念なことに家は津波によって住めるような状態ではなくなってしまった。そこで彼らは東京に住む兄の家に世話になることになったそうだ。彼らは運命を恨みはしたものの、兄夫婦に対しては心から感謝の気持ちを持っていた。しかし日が経つにつれ次第にたまってきたストレスからか、国の対応はどうなっているんだ,国はおれたちをどうしてくれるんだという愚痴や不満ばかりが口から出るようになり、挙句の果てには兄嫁の口のきき方が気に入らないなどと、周りに八つ当たりさえするようになってしまった。
そんな状況が続いた、滞在して一週間程が経ったある晩、兄嫁がご主人にこうこぼした。『被災して帰る家もなく、かなり落ち込んでしまっている気持ちもわかるし、本当に可哀想だけど、私も全員の面倒を一人でみてるのは大変なの。上げ膳据え膳でいるだけじゃなく、せめて自分で食べたお茶碗くらい洗ってくれてもいいんじゃないかしら?』
それを聞いたご主人は翌日、奥さんの言ったその言葉を弟に伝えた。するとその翌日弟一家は、『俺たちは被災者なんだぞ』と言い残し、けんもほろろに兄夫婦の家から出て行ってしまった。 

上記の話を聞いてあなたはどうお感じになったでしょうか?弟一家は確かに戻る場所を失ってしまった震災の被害者であり、間違いなくこの度の被災に関しては痛ましく心から気の毒に思う。
しかしこの話を聞いて、弟夫婦の辛い気持ちは痛いほど感じられるものの、私はふと彼らが大変な落とし穴にはまってしまっていたのではないかとの疑問を少なからず感じた。兄夫婦に対して元々は持っていたはずの感謝の気持ちが、時間の経過と共に薄れ、自分たちは被害者なのだから、周りが世話してくれるのが当たり前という、『あって当たり前』『やってくれて当り前』という勘違いという落とし穴。
世の中、あって当り前,やってくれて当たり前などということはあるはずがない。被災者としての辛さややるせなさは想像を絶するものであることは疑いようがないが、ほんのちょっと、ほんの少しだけの気配りさえあればこのような結果にはならなかったのではないだろうか?未だ安心した普通の生活すら出来ない被災者が多く残る中で、その苦しい日々の中でも、中には周りの仲間を気遣い、自ら立ち上がり必死で頑張ろうとしていらっしゃる方々も少なくない。いかなる状況にあったとしても、少なくとも兄夫婦に対しての言動においては、彼ら弟夫婦にも少なからず反省すべき点があったのではないか、そう感じた。 

翻って、日常の職場でもこのような『自分だけの当たり前』と言う感覚に毒されて大事なものを見失ってしまうケースはないだろうか。
新卒,中途を問わず、新たに会社に入社したものの、自分の想像していた感じと違う、自分は優秀なのに周りが認めてくれない、やりたい仕事をやらせてくれない,などなど。無理やりこんな仕事をさせられているといったあたかも就職した自分だけが被害者であり、悪いのは会社であり、先輩であり、周りの環境であるかのような錯覚にとりつかれ、結局『こんな会社は自分には合わない』と言って去ってしまう。
最近のデータによると、全国にある法人262万社の中で、欠損つまり赤字企業は73%に上り、倒産や解散など消滅する企業は年間4万社にも上る厳しい時代。そのような中で就職は困難を極め、今年の就職率は過去最悪だったという。
こんな就職もままならない時代。ところが、せっかく就職出来たにも関わらず、3年以内の離職率は大卒で30%,高卒では50%にも上るという。
これは新卒だけに言えることでなく、30歳代も含めた若年世代で激増しているという。
誰もこの会社に就職しなければ許さないぞ!などと脅されて就職したわけではなく、自らの選択で就職したはず。にも関わらず、自分の甘さを棚上げし、優しく接してくれるのが当たり前,丁寧に教えてくれるのが当たり前,自分は優秀なのだから誰でも出来るようなことでなく、もっと格好良いすごい仕事を与えてくれるのが当たり前、そう考えてしまう人がいる。個人のわがままを個性と勘違いし、個性を尊重してくれないと嘆き、思い通りにならないことに腹を立てる。自らその環境に向き合う努力もせず、自分が出来ない、やる気が起きないのは周りのせいだ位の感覚で、与えられた仕事も無理やりやらされている被害者感覚を持つ。もちろんこういった感覚を持ち、またこのような理由で辞める人は、決して多くはないものと信じたい。しかしそんな感覚に操られている人は、たとえ幸運にも次の会社に再就職できたとしても、必ずまた同じ壁にぶち当たるものであり、同じことを何度も繰り返してしまうはずである。
確かに中には会社側に問題がある場合も少なくないとは思う。しかし、例えそのような会社に出会ってしまったとしても、自ら選択した会社。会社に雇われているのではなく、会社を共に新たに創っていくのだという強い意志を持ち、まずはその会社を好きになり、そして仲間を好きになる努力をし、たとえどんなつまらないと思える仕事でも前向きにやり続けることができれば、必ずその日々の(人によっては繰り返しでつまらないと思うかもしれない)作業の中にも仕事の意義、自分の存在意義を見つけることが出来るはずである。またそれを継続してこそ初めて成長の糧となる大事な気付きが生まれ、結果仕事も人生も楽しくなっていくものなのではないだろうか。 

最近よく、お客様に感動を与えようと旗印を掲げ、日ごとにお客様への特別なサプライズを提供しようと取り組んでいる会社を見かける。もちろん皆で知恵を絞って作り上げたサプライズには、確かに大きな効果があると思う。しかし、本当の感動は、作られたものの中にではなく、それ以上に実は足元の普段の平凡な仕事の中にこそあるものではないだろうか。スタッフ一人一人が、誰よりも、他のどこの会社よりも日々の仕事を幸せそうに楽しそうにこなす日常にこそ、お客様が感じる感動が潜んでいる気がする。
美容業界でも、離職率が問題として取り沙汰されて長くなるが、この消費不況の時代、そして大震災が経済に与える影響が計り知れない不安定な今だからこそ、新人だけでなく、美容に携わる私も含めて一人一人が、改めて自分の日常を見直してみるチャンス。自分が選んだ仕事、自分が選んだ職場、そして何よりかけがえのない仲間達が存在すること、そしてそこには来店を楽しんでくれるお客様がいること、これら全てを当たり前と思わず、今一度、全てに対して今以上に好きになる努力をし、この仕事に携わっていられることに感謝し、幸せそうに仕事に取り組む姿勢、これこそがあなた自身の生活を益々楽しくしてくれるばかりでなく、結果、更にあなたのファンが増えていくための必須のプロセスなのではないだろうか。 

あなたの周りにある当たり前、はたして『当たり前』なのでしょうか?

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