『論語とそろばん』
これは経済活動には道徳と経済両方が必要不可欠だという、渋沢栄一という明治時代の実業界の最高指導者の一人が説いた言葉である。最近これを模して『ロマンとそろばん』などという言葉を使う人が多いようだ。
少々前のことだが、社内で、『鶏と卵』の話の様に、ロマンとそろばんのどちらが優先されるべきか、という話で盛り上がった。経営者になんら夢もビジョンもなく、ただ儲かればいい、金が稼げればいいという考えだけで、あるいはまた、スタッフはその為の駒だ程度に考え、とにかく売上だ!ノルマだ!と、そろばん(売上)だけを追いかける会社を見かけることがある。こういった会社は、たいていスタッフにとってもお客様にとっても魅力のない、つまらない会社であることが多い。たとえ一時は盛り上がっても時間の経過と共にスタッフが離れていき、衰退していくケースが多いようだ。セット面が10面近くありながら、現在はオーナー一人だけで経営なさっているサロンを最近よく見かけるが、なぜか悲哀を覚えてしまう。
一方で、オーナーのみならずスタッフ全員がロマンが大事、スタッフの幸せが大事とばかりに、最近流行の従業員満足や働きやすい職場環境作りのみに労力を傾注しているサロンも見かける。こういったサロンを見るにつけても少々不安を覚えてしまうのは私だけだろうか。休日を増やしたり、給料の底上げをすると、当然最初はスタッフはみんなオーナーに感謝する。しかしながら、悲しいかな、時の経過と共に人はその環境に慣れて、そのうちそれが当たり前になってしまうもの。間違って環境を後戻りさせようものなら、最初はあれほど感謝していたはずなのに、今度は多くのスタッフがオーナーに対して不信感や不満を持ち、ややもするとオーナーを露骨に攻め始めたりする。そして気がつくと会社の中が、居心地の良さだけを求める人で溢れ、そのうち弱体化していく。
余談だが、よく、求人広告で『当社は休日が多いですよ!残業ありませんよ!給料が高いですよ!』と人集めのためにその部分だけをPRする求人広告を見かけるが、そういった会社には休みやプライベートの時間のみをこよなく愛する人ばかりが集まってくるらしい。環境はもちろん大事。しかしながらその好環境という権利を与えられたら一方で、自らが会社を成長させるという義務も果たさなければならない。またそういった義務感だけでなくとも人の多くは、やりがいや成長している自分自身や組織を確認できなければ、いくら休日が多くても、給料が多くてもいづれ仕事に対してしらけていってしまうものなのではないだろうか?
では一体、ロマンとそろばんはどちらが優先されるべきなのか?
まさに鶏と卵。
オーナーの、あるいは会社としてのロマンや夢、ビジョンは周りの人に夢や可能性、勇気を与え、スタッフを成長させてくれる。また待遇を含め働きやすい職場環境作りも、会社を継続、発展させる意味ではこれも必要不可欠。非常に大事なもの。しかしながら一方ではこれを実践するためには原資(資金)が必要なのである。資金なくしてロマンの実現はなかなかしんどいもの。そのためには売上(利益)が間違いなく必要なのだ。つまり、ロマンを追いかけるならばそろばん(売上)も同時に上げていかなければいけない。また、売上が順調になればなるほど、ロマンが大事になってくるということである。しかしオーナーは多くの場合、身体はひとつ。両方同時に指揮出来るスーパーマンなどそうは多くないはず。だからこそ、もう一人、オーナーとビジョンを共有でき、更に徹底してオーナーと共に売上を上げていく気概を持ったパートナーが必要なのである。いわゆる二番手、『片腕』が組織には必要といわれる所以である。どちらがどちらの役割を担うかは時として交代することもあるだろうが、オーナーがロマンを語り、それを理解した上で片腕がいやらしい位に自らそろばんを追いかける。ロマンとそろばん両方を同時に実現していくために、この両者がバランス感覚を持ってそれぞれの役割を実践することこそがスタッフの豊かさの実現、幸せ感の創出、更には会社の発展につながるものと思う。但し、両者が同時に同じ役割を担ってはいけない。両者がひとつの方向に偏ってしまうと、前述したように衰退の道を歩みかねない。最近よく見かける場面がある。店長やリーダーが、職場環境を良くしよう、スタッフの意識を変えようなどと、今の環境やスタッフの意識を変えることに力を注ぐ姿。これはこれで素晴らしいと思うが、人は人の言葉で『説得』されて動くものではない。上司の行動を見て自ら『納得』して、初めて動くようになるものである。そういった意味においては、まずは店長やリーダー自身がそろばんへの意識を更に高く持ち、自らが行動し目標を達成すること。この率先垂範こそが、実は組織力を高め会社を発展させていく上で非常に重要なことなのであろう。売上が中々上げられない店長やリーダーの方には大変失礼な耳の痛い話かもしれないが、まずは出来ない理由を並べるのでなく、出来る方法を考える方向に自らの意識を向け、自ら課された目標を必達する姿勢こそが幹部として最も大事なことのように思う。そもそも個人と会社の欲求は本来的には異なるもの。個人としては、休みがたくさん欲しい、できれば(辛い思いをせずとも)給料をたくさんもらいたい、(自分なりの尺度ではがんばっているつもりだが)認めてほしいのに他人からはなかなか認められず不満を持っているなど…。これらは個人の欲求としてはもしかしたら誰もが持っている代表的なものなのではないだろうか?これに対して会社の欲求は、財やサービスを生産あるいは提供することで利潤を得て、経営を継続させること。これが会社としての根本的なニーズであるはず。こう考えると個人と会社両者の欲求は本来的には一致しないもの!?この異なる欲求を一致させ、あるいはまた両者共に幸福になれる唯一の一致点、それは個人一人一人が企業活動の様々な場面で貢献するだけではなく、『成果』を上げること。これによって両者の欲求は同時に達成されるのである。ただし、実は『これのみ』によって…。人間は全員が自分の『人生の経営者』。自分の人生を素晴らしいものにするのもしないのも自分次第。私はビプロスと関わりを持って下さっている皆様が必ず幸せに、そして物心共に豊かになって下さることを心から祈念致しています。是非お互い『成果』を産み出していけるよう、共に行動してまいりたいと思っております。
最後にひとつ。戦略や戦術は『やることを決める』のではなく、『やらないことを決める』こと。これが案外成果を出すための近道ではないかと考える昨今です。